口腔がんの早期発見のために

VEL scope について

口腔癌の治療成績は欧米では向上しているにもかかわらず、日本では生存率を含め治療成績が向上していません。その原因は、早期に発見する率の低さであると考えられています。

口腔癌や、前癌病変の発見は、最も口の中を見る機会が多い歯科医師の重要な責務であると考えます。しかし、一方で、口腔粘膜病変の診断は難しく、一般の歯科医の再教育とともに簡便なツールの開発が望まれます。

欧米において、口腔癌の早期発見に有用性が報告されているVEL scopeについて説明いたします。

VEL scopeによる観察では、専用のハンドピースを用いて患者の口腔内に400~460nmの青色の可視光線を照射し、フィルター越しに病変を観察します。正常組織では黄緑色の蛍光を発し、口腔粘膜病変など異常組織では蛍光色を示さないことから病変部が黒く観察され、正常組織と病変を識別することが可能となります。

すなわち、上皮正常細胞では励起光に反応し、蛍光を発しますが、異型性をもつ細胞、あるいは腫瘍細胞では、細胞外基質などのコラーゲンが破壊されているような領域では細胞が蛍光を発することなく励起光を吸収し、黒く観察されるのです。

VEL scopeの利点として、侵襲がないこと、検査時間が数分と短時間で済むこと、取り扱いに特別な技術を必要としないこと、患者や術者の姿勢が制限されることがない事などがあげられ、容易に口腔内を観察する事が可能であり、前がん病変や口腔がんの検診に有効であると思われます。

症例

Case1.舌扁平上皮癌

Case2.頬粘膜扁平上皮癌

Case3.歯肉扁平上皮癌

Case4.歯肉~頬粘膜 前がん病変

口腔前がん病変のヨード染色による検出

はじめに

口腔がんは直視が可能でかつ触診もできるがんであり、また、一方で癌病変の周りに癌になる一歩手前の病変ともいえる前癌病変が存在すると、そして、その前がん病変を目視できることも大きな特徴補一つである。

この前がん病変の検出にはいくつかの意味がある。

口腔の前がん病変検出の意味
  • 口腔がんになる前の病変で検出し、厳重な経過観察を行い、早期がんの疑いが出れば切除する
  • 口腔癌病変周囲の前がん病変の範囲を検出し、それにより病変の切除範囲を決定する
  • 前がん病変、あるいは前がん病変の中に癌病変の存在が疑われ、病変自体が小さい場合に、その疑いのある病変をすべて切除して診断を行う(Excisional Biopsy)の範囲を設定する

ヨード染色の原理

口腔粘膜には多量のグリコーゲンが含有されているため,通常のヨード・グリセリン呈色反応により,粘膜上皮は褐色を呈する。しかし、癌や上皮異型性では顆粒細胞層のグリコーゲンの含有量が少ないため不染部を形成する。

染色液について

一般には1.2~3.0 % のヨード液が使用される。ただし、粘膜への刺激がある(しみるような痛みを伴う)ことから、びらん,潰瘍を認める場合には1.2%ルゴール液を用いる。

口腔の前がん病変検出の意味
  1. 水でよく洗口させる
  2. エアーで粘膜全体を乾燥し,簡易防湿を行う
  3. ヨード染色液を綿球で広く塗布し,乾燥後さらにヨード染色液を重ねて塗布する(3%ヨード染色液の場合は1回のみ)
  4. 観察(3%ヨード染色液の場合は生理食塩水で洗浄後観察)
ヨード染色応用の有用性
  • 上皮異形成を描出するのに有効であり、ヨード不染部全域はすべて種々の程度の上皮異形成を示す。また、不染部には正常な上皮は存在しない。
  • Excisional biopsy の対象となる表在性病変で、扁平上皮癌周囲にひろがる上皮異形成の出現率が高いため特に注意が必要であり、これを明確に描出するためには、ヨード生体染色が有用である。

参考文献

早期口腔癌発見のための生体染色法

東京都歯科医師会雑誌,第50巻11号773-778,2002.

矢島安朝ら:舌癌 excisional biopsy におけるヨード生体染色の有用性

口腔腫瘍,第13巻4号277-282,2001.

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