術後に行うリハビリテーション

手術後に行うリハビリテーション

口腔癌では手術部位やその範囲に応じて機能障害を生じます。
術後に残る障害としては、「話す」、「食べる・飲みこむ」といった言語障害、摂食・嚥下障害以外にも、首のリンパ節などに対する治療に合併して肩や腕の障害などもあります。

術後の機能障害には口腔がんの進展度、切除範囲、歯の残存の有無の他、年齢、患者さんの意欲などが影響します。
舌などの口腔組織の欠損により液体や食塊の保持や送り込みが障害されると嚥下(飲み込み)が障害され、発音、発語についても同様に障害されます。

「噛む」機能(咀嚼機能)については、手術後に残存する歯の歯数とその状態が重要で、奥歯での安定した咬合と顎の骨の条件が良好であればより良い入れ歯の作成が可能となります。
具体的には、舌の半分以上の切除や舌の下の筋肉を広範囲に切除したり、それらを含めて上顎の広範囲な切除もしくは下顎を半分以上切除したりすることによる広範囲な骨の欠損が伴うと口腔機能の回復にやや難渋することが多いのも事実です。

これらの機能の回復は個人差が大きく、特に意欲のある患者では、かみ合わせや歯の回復が十分でなくても経口摂取が十分に可能な場合もあります。この術後の機能障害をより軽度にとどめるには、術前から術後までの口腔全体の形態や機能を考えた手術、再建そして機能を回復させるためのリハビリテーションを一連の治療として計画することが重要です。

機能障害に対する治療を行うにあたっては状態の把握、障害程度の回復がどこまで期待されるかといった予測、機能訓練評価の繰り返しが重要で、歯科医師、医師のみならず看護師、歯科衛生士、歯科技工士、薬剤師、理学療法士、言語聴覚士、心理療法士、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、臨床検査技師、放射線技師等の参加によるチーム医療が望まれます。

食事を噛んで、食べて、のみこむといった、摂食、咀嚼嚥下機能は、様々な神経と筋肉が働いて行われる複雑な協調運動で行われます。しかし、口腔癌の手術でこれらの機能を担う組織を切除したり、切除しなったり鈍くなったりするために複雑な摂食・嚥下運動を行うのが難しくなるわけです。
また、がんの切除によって失った組織を補うための再建移植組織が小さかったり、傷が治るに従って、瘢痕という硬い傷跡の組織が形成されることなどによって手術後かなり時間が経過してから、摂食・嚥下障害が生じることもあります。

「しゃべる、話をする」といった発音、発語機能に関しても、リハビリテーションが必要になります。
口腔がんの場合には、声を出すという発音機能に関しては、障害されないことがほとんどですが、言葉をつくる構音、発語が障害されることがあります。歯が一本抜けても、言葉を発するときに息が抜けて、発語しにくいという経験があると思います。このような場合には、入れ歯や顎の欠損を補う装置なども含め、口の中の環境を整えます。
同時に舌や頬の運動なども含めた、リハビリテーションが必要になります。この場合も、歯科医師や歯科技工士さらに、言語療法士などによるチーム医療が重要になると思います。

術後リハビリテーション

移植術など外科技術の進歩に伴い、頭頸部癌の外科的治療は飛躍的に進歩しました。口腔癌の手術では癌の再発や転移を避けるために根治的な手術が行われるとともに術後に口の形態と機能をできるだけ残すために色々な工夫が取り入れられています。

しかし、食べること、飲み込むことは様々な神経と筋肉が働いて行われる複雑な協調運動で、しかも口やのどのすべての器官は複雑な機能を営むための優れた器官ですから、手術で切除した部位に他の組織を上手に移植しても「食物を食べたり、飲み込んだりする」摂食・嚥下機能が障害されることは少なくありません。

手術後には口やのどの形が変わったり、動きにくくなったり、感覚がなくなったり鈍くなったりするために複雑な摂食・嚥下運動を行うのが難しくなることがあります。また、誤嚥といって、食べたものが肺に入って肺炎を発症する可能性もあります。

予防のためには、歯科医師、言語聴覚士(ST)を含めたリハビリが行われます。また、術後の摂食嚥下機能が速やかに回復するように術前から摂食・嚥下機能の検査を行い、術前訓練を積極的に取り入れています。

術後の摂食嚥下訓練としては間接訓練と直接訓練とがあります。
間接訓練は食べ物を使わない訓練で、喉頭挙上訓練(俗にのどぼとけと呼ばれる喉頭隆起に手を当て、飲み込んだときに上がったままの状態を数秒間保つ訓練)など、さまざまな方法があります。

直接訓練は実際に食べ物を使っての飲み込みの訓練で、食べるときの姿勢、1回の量、食べるペースなど、各種の訓連方法があり障害の部位、程度を的確に診断し、診断に基づいて最も効果のある訓練法を選択します。
また、術後の機能回復に補綴物が必要な方には、顎義歯や摂食補助装置の作製も行います。

具体的には、以下の方法でリハビリの必要度を評価します。

①下造影検査(VF)

②超音波検査

③内視鏡検査

具体的には、以下の方法でリハビリ指導を行います。

① 痰などを排出する方法を指導します。

② 摂食・嚥下器官の運動性を高めるための機能訓練を行います。

③ 飲み込み運動をスムーズにするための知覚を高める訓練を行います。

④ 飲み込みやすい姿勢や飲み込み方の指導を行います。

⑤ 食事内容のアドバイスなど介助法の指導を行います。

⑥ 飲み込みに役立つ特殊な義歯や嚥下補助装置の製作を行います。

⑦ その他飲み込みをスムーズにするための特殊な訓練を行います。

⑧ 口腔清掃を行い、また指導も行います。

リハビリを開始する時期について

術後のリハビリは、全身状態が安定し、呼吸機能が安定したことを確認して決定されます。

リハビリテーションの効果

リハビリテーションを開始して半年~1年後は、

▼舌の動く部分を切除した場合=発音や食事に関する改善度はともに術前の8割程度になります。

▼舌根を含む切除の場合=食事ののみ込む機能は3~4割、発音はマウスピースを利用して術前の6割程度になります。

リハビリは根気強く続ける事が大切です。

腫瘍マーカーQアンドA

Q1.術前の摂食嚥下機能訓練の導入は、術後の機能の向上に有用か?

口腔癌、特に舌癌や口底癌の切除後の欠損に再建手術が行われた場合、しばしば舌の可動性が制限されて摂食嚥下機能が障害されます。
このような場合、術後の状態を予測して術前から摂食嚥下訓練を行っておくと、訓練を行わない場合に比較して、患者が機能訓練を理解しやすく、摂食嚥下機能の低下を防ぐことができます。

《解説》

手術療法の進歩によって拡大手術が可能となり、進行口腔癌でも長期に生存が可能となってきています。しかし、進行癌の場合、術後の機能障害のため経口摂食が困難となり、社会復帰が遅れる場合も少なくありません。
近年、口腔癌切除患者に対する口腔機能リハビリテーションが導入されるようになり、その有効性が報告されてきています。

Q2.術前からおこなう口腔ケアは術後の合併症の予防に有用か?

口腔癌に対する再建手術を行う患者に術前・術後に口腔ケアを積極的に行うことにより、術後合併症や術後感染症の発症を減少させ、経口摂取までの所要日数が短縮する可能性があります。

《解説》

口腔癌の手術は口腔内常在菌が存在するため、術野が細菌に曝露されるという状況下での手術となるのが特徴です。
術後創感染や肺炎に対して、手術術式の工夫や合併症の有無、腫瘍病変部の細菌学的検索や抗菌薬の選択などの検討は行われてきましたが、術後感染を著明に減少させることはできませんでした。

近年、高齢者の気道感染に対する口腔ケアの効果が報告されています。口腔癌における再建は、口腔内細菌の存在する状態での手術となるため、術前・術後の口腔ケアを行い、術後早期から口腔内の衛生状態を良くすることにより全身的および局所的感染症の発生が予防され、経口摂取までの所要日数を短縮することができます。

Q3.口腔がん治療後のQOL評価をおこなう場合、どのような評価方法があるのか?

口腔癌の治療において、言語、摂食嚥下などの機能障害やQOLはその程度によって、個別に判断し、介入していく必要があります。
機能障害は複数が重複して発症しているため、その客観的評価は難しく、それぞれの評価を行いながら治療に反映していくことが重要です。

《解説》

手術療法の進歩によって拡大手術が可能となった反面、機能障害が後遺している場合も少なくありません。進行口腔癌でも長期生存が可能となってきた現在、治療後の機能障害を含めてQOL評価を行い、リハビリテーションに役立てることが必要になってきました。
口腔癌治療後の障害は、言語、摂食嚥下などにとどまらず精神的、社会的観点からも評価することが望まれており、それに対応した評価スケールも報告されています。

Q4.舌接触補助床は術後の機能改善に有用か?

舌口底部の腫瘍切除後で、残存舌の容量が減少した場合や舌の可動性が大きく障害された場合には、舌接触床を用いて舌を口蓋に接触させることで、言語障害や接触嚥下機能の回復が期待できます。

《解説》

舌口底部の腫瘍切除後に残存舌の容量が減少したり、欠損の再建を行った後に舌の可動性が制限された場合には、舌が口蓋(上顎の内側)に接触しないために生じる機能障害があります。
このような場合、舌と口蓋のあいだに生じる空隙を埋める装置を用いたリハビリテーションを行うことが有効であるとの報告があります。
このような装置の効果は年齢や社会復帰への意欲、コミュニケーションの必要度などにより影響を受けるとされています。

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